PR

【ispace】無人探査機による月面着陸の難しさ 56年前のアポロは成功してなぜその後失敗続きなのか

月面着陸3日常 diary
スポンサーリンク
スポンサーリンク

こんにちは、ハルです。
今回は宇宙のお話です。普段ははいい年してゲームの話題か、私腹を肥やすことしか書いていない私にしては少し真面目なお話です。

今回は2025年6月6日にアジアの民間企業初の月面着陸を目指し、そしてあえなく失敗した宇宙ベンチャー企業ispace(アイスペース)と月面着陸船「レジリエンス」の関連記事ですが、テーマは

「無人探査機による月面着陸の困難さ」

に関して何かお話を出来ればと思います。

なお私は航空宇宙工学の技術者でもなければ制御工学・軌道力学の専門家でもない、ただの畑違いのヒトです。専門の先生方から見ると「フン、羽虫が喚いておるわ」とお思いのことですが、どうか生暖かく見ていただければと存じます。

何か間違った認識をしていてもそれらの文責は全て私にあります。どうぞ罵ってください。


スポンサーリンク
スポンサーリンク

前置き:ただの宇宙好き……か?

まず前置きなのですが、私はただの宇宙好きの一般人……に擬態した何かです。

その実態は普通の人よりは少し宇宙に接することが多いと言いますか、具体的には太古の昔に宇宙航空研究開発機構の先生と共著で論文を書かせて貰ったことがあります。畑違いですがお呼ばれして各種学会にも参加して講演なぞしたことがあります。そんな感じの一般人に波平程度の毛が生えたナニカです。

月面着陸2
月面着陸3
ただの学会の写真です。私は研究チームの関係者ではないのでご注意を!

もはや思い出になった大昔の写真などを掘り返してきました。ここだけの話ですがはやぶさ2には私も関係しているというような噂も聞いた事があります。なんで素粒子物理学とC型小惑星に関係があるのかと首を傾げるかと思いますが、これが実は結構関係があるのですが、これ以上言うと身バレしそうなのでやめておきます。ちなみに私は上の研究の関係者ではありませんのでよろしくお願いします。

さて前置きはこの辺にして、本題の「月面着陸の困難さ」に関して以下で述べていきます。

アポロ宇宙船は1969年に月面着陸に成功したのに……なぜ今更失敗する?

たぶん皆様が疑問にお思いなのが、

Q. アポロ宇宙船は1969年に月面着陸に成功したのに、なぜ56年後の2025年にもなって今更失敗する?

これだと思います。
ファミコンレベルの技術力しかない大昔の宇宙船が何度も月面着陸に成功しているのに、技術力がはるかに向上しているはずの2025年になぜ大失敗するのかと。

本題に入る前にまず月面探査の前史をご紹介したいと思いますが、ご存知のようにアメリカ航空宇宙局率いるアポロ計画において、アポロ11号が1969年に初めて月面着陸に成功しました。まさに世紀の瞬間。人類の可能性が大いに拓かれた一瞬でした。まあ私まだ生まれてないけど。

その後アポロ13号がアレしましたが、アポロ17号まで6回の有人月面着陸に成功してアポロ計画は有終の美を飾りました。

その後、月は忘れ去られました。

どのくらい忘れ去られたかと言うと、アポロ17号以降に月面に着陸した有人宇宙機は現在まで存在しません。

無人探査機はというと2013年に中国、2023年にインド、そして2024年に本邦のJAXA率いる小型月着陸実証機SLIMが神酒の海にピンポイント着陸に成功したのは記憶に新しいところですが、民間も含めて両手の指で数えられるほどしかありません。

以上が月探査の全てであります。お隣の天体なのに完全に放置されている……。(まあSELENEとかもあるのですが)

理由はいろいろあって月の石を調べた結果めぼしい資源に乏しかったり、アポロ計画とサターンⅤロケットの恐ろしいまでの費用だったり、冷戦の終結だったりがありますが、ここ最近は再び月に注目が集まっています。そのうち月の支配権をめぐって戦争が起きそうな気配すらあります。どこまで愚かなの人間。

さてそれでは本題に戻ります。

Q.ポロ宇宙船は1969年に月面着陸に成功したのに、なぜ56年後の2025年にもなって今更失敗する?

に関してですが、この理由は簡単です。

A. 無人探査機だから

何となくイメージ的に「有人より無人のほうが優れている」みたいなイメージはありませんでしょうか。無人運転とか。無人配膳ロボとか。

ただ宇宙に関しては有人探査のほうがはるかに融通が効くというか

優秀な宇宙飛行士が現地にいて臨機応変に宇宙船を操作できる

このアドバンテージが非常に大きいです。
実際に高度や速度・目標物を目で見て宇宙船を操作するのと、無人で遠隔操作・自動操縦で着陸を目指すのでは、難易度に雲泥の差が生じてきます。
仮に何かトラブルが生じても、人類の叡智ともいうべき有能な宇宙飛行士が臨機応変に対応してくれます。
一方無人探査機の場合だと壊れたらそれで終わり。回収も修理も出来ません。この差は大きい。

また、有人月面着陸に初めて成功したアポロ11号ばかりが持て囃されますが、名前をよく見てください。アポロ11号です。

つまりあの巨大官僚組織NASAですら、アポロ1号からアポロ10号までをただの予行練習として入念な準備を行っています。

・アポロ1A号(1号はどうしたって?それは……)でアポロ司令・機械船の打ち上げだけ
・3号で司令船の大気圏再突入試験だけ
・5号で月着陸船の飛行試験だけ
・7号で地球周回飛行だけ
・8号で月周回飛行だけ
・10号で月に接近するだけ(10号の乗組員は相当に悔しかったでしょうに)

そして11号で成功

まさに用意周到、執念の成功と言わざるを得ません。
これが許されたのはアメリカの財力と当時の世論も大きいです。今の衰退国家日本ではこんなことは決して許されません。一発成功が求められます。これも大きな理由。

無人探査機による月面着陸が困難な理由

アポロの事例を振り返った上で、技術的・物性的な面から無人探査機による月面着陸が困難な理由を見ていきます。

理由①:月に大気が無い

大気の有無というのは大気圏突入・着陸の難易度に大きく影響します。

地球から宇宙に出た宇宙船が(おおむね)無事に帰還できているのは、ひとえに地球に分厚い大気があるからです。

軌道上で、ISSや宇宙船などは大体8 km/s (毎秒ですよ!時速約3万キロ!)で動いています。いわゆる第一宇宙速度というやつです。

これを地上の飛行場に着陸させるためには、時速200~300 km程度まで大幅に速度を落とさなくてはなりません。

ここで活躍するのが大気圏です。
大気圏があるから、運動エネルギーと位置エネルギーを断熱圧縮の形で安全に熱・光エネルギーに変換できています。いわゆる大気圏再突入の際に機体が真っ赤に光っているアレです。そして着陸の最終フェイズではパラシュートを使うなりフラップを出すなりで、安全に着陸できます。

もし大気が無かったら?空力ブレーキが不可能になるので、宇宙船の速度を落とすためには非効率な化学スラスタを用いて推力を発生させるしかありません。当然その燃料も必要です。

この燃料というのが本当に厄介で、ペイロードを減らす邪魔な重量というほかないですし、安全性・冗長性の面から非常に厄介な存在です。燃料を使いきったら使い切ったで機体特性も微妙に変化します。

月面着陸1
https://www.youtube.com/watch?v=B682YoxGF0w

上の画像はispaceがライブ中継した今回の着陸船レジリエンスのCG画像です。

画像はもちろんCGですが、右のテレメトリと呼ばれる数値は実際の数字が表示されており、速度1,510 km/h高度が10,121 mと表示されています。

時速1,500キロの超速度の探査機を速度ゼロまで落とさなくてはならない。そのためスラスタを下向けに噴射して速度を相殺するしかありませんが、これがまた難しい。

月面着陸4

上の画像はあくまでCGですが、このような形で減速が行われます。ちょっとでも向きがズレたら全然違う方向にすっ飛んでいくことがわかると思います。間違って頭が下にむいちゃうとそのまま月面にドボンです。

実際、前回・今回ともに、失敗の原因はスラスタで速度を落としきれず月面に高速で衝突したことが理由です。十分に減速できないうちに燃料が尽きてしまってそのままあぼ~ん、と。

もし月に大気があれば、大気圏再突入の要領で空力ブレーキを使って滑空することではるかに安全に着陸できたでしょう。

これは将来の火星探査・火星移住の際にも大きな問題点となります。火星の大気は0.006気圧(6 hPa)しかなく、地球(1013 hPa)の1/160しかありません。
月よりマシとは言え、まともな空力ブレーキは利用できないためNASAも相当苦労して、パスファインダーではエアバッグ方式、キュリオシティなどでは逆噴射方式が用いられましたがどちらもかなり高水準の技術と精度が求められます。人間が乗った宇宙船の場合だとさらに問題は複雑化します。やはり軌道エレベーターを作るしかない……。

理由②:月に重力がある

ご存知の通り月には重力があります。それも結構デカい重力です。

月の直径は約3,476kmで地球の約4分の1、月の質量は地球の81分の1ということで、月の重力は地球の約1/6です。

地球の約1/6といえど侮れず、地球も海の潮汐など強く影響を受けていることはよく知られています。

もちろん月へ向かう探査機はその影響を大きく受けます。
何かというと、地球周回軌道から月遷移軌道に入る際に相当うまく軌道コースを調整しないと、そのままとんでもない軌道に入るか、もしくは(アポロなどの場合だと)自由帰還軌道に入ってしまうので、適宜スラスタ噴射による軌道修正マニューバを行い、コースを微調整しなくてはいけません。今回のレジリエンスが具体的にどんな遷移軌道を使用したのかは存じ上げませんが……。

月遷移軌道への投入方法は月周回衛星「かぐや」の飛行計画が非常に分かりやすいので興味のある方はご覧ください。(日本航空宇宙学会誌第 56巻 第 657号)

調整うまく成功し月周回軌道に入ったとしても、月軌道から月面に向けて降下を開始すると徐々に月の重力に引かれて落下していきます。

この落下速度は時間により刻々と変化する一方でスラスタ噴射により徐々に機体は軽くなります。(無人探査機程度の燃料量ならそんなに影響ないのかも)
それらの変化も監視しながら降下速度を微調整しないといけないのが難しい。
軌道上での宇宙機同士のドッキングなどとは違い、月面着陸では徐々に月に引かれて、月の重力加速度により加速していくというのが難しさのポイントです。

この点は微小重力、ほぼ無重力の小惑星だとかなり楽になると思います。
はやぶさが墜落したイトカワ、はやぶさ2がサンプルリターンに成功したリュウグウなどはごく小さな小惑星で、小惑星本体からの重力はほとんど考慮せずとも良かったはずです。
そのため非常にゆっくりと、秒速10 cm程度という非常にゆっくりとした速度で安全に小惑星表面に降下することが出来ました。(まあそれでも失敗して焙られたんですが)

理由③:予算の都合で一発成功を求められる

皆さんもう気づいておられるか、気づかないふりをしているだけかもしれませんが、日本はすでに先進国ではなく、後進国に両足を突っ込んでいます。

バブルを経験した年配の方などは今でも日本の強さを信じていたり技術力を誇っていたりするかも知れませんが、ものづくり大国などというのはすでに幻想で、技術力は世界から周回遅れです。
これは家電やLSI・半導体分野で日本がコテンパンにされて中国や台湾の足元にも及ばないレベルなことも明らかです。MRJ(三菱リージョナルジェット)の大失敗、エルピーダ、JDI(ジャパンディスプレイ)、東芝、シャープ、そして日産……枚挙に暇がありません。まさに敗戦国の末路というほかありません。次はラピダス?

ようやく現実に気付いた政府は「観光立国」などと言い始めましたが、それって発展途上国だったころ東南アジアと一緒なんですよね……。

そんな苦しい台所事情なので、宇宙開発に割ける予算は多くありません。そのため一発成功・一発必中が求められます。

記憶に新しいところですが、2023年3月7日に本邦の新型基幹ロケットH3の初号機が打ち上げられ、そして第二段エンジンの点火に失敗して軌道投入できず、あえなく爆破されました。

ここで大問題だったのが信頼性のかけらもない初号機に、本物の人工衛星を載せたことです。280億円のだいち3号は一度も働くことが無いまま海の藻屑になりました。

先ほどもご紹介した通り、NASAのアポロ計画では10回もの予行練習を経て、アポロ11号で月面着陸に成功しています。本来は新しいプロジェクトを行う際にはこのくらいの用意周到さが必要なのですが、前述したように本邦にはすでにそんな余裕はありません。

H3の実証試験とだいち3号……あわよくば両取りをしたい。そんな欲望まみれの皮算用の結果が、二兎追う者は…という結末になってしまいました。

最近はJAXAも失敗続きで、弾道ミサイル小型ロケットイプシロンSの燃焼試験中に大爆発を起こしたりイプシロン6号機は軌道投入に失敗して爆破処理されたり、長期閉鎖環境のストレス蓄積評価に関する研究で不祥事が発覚するなどもう散々です。

JAXAがアカデミックな風土で清廉潔白な組織…だとは全く思いませんが、失敗続きなのは今の日本の現状と限界を表している……そんな気がしてなりません。

今回のispaceの件も、一発成功を求められていることは明らかです。それでも前回の失敗は初回ということで許してもらえた、2回目の今回はどうかさ、3回目は……(震え声)


まだまだ書きたいことはあるのですがさすがに長すぎて怒られそうなので今回はここまでにします。

今回は月面への無人探査機による着陸の困難さに関して、それらしいことを書き殴ってみました。

お話ししたように月面着陸は2025年でも非常に難しいチャレンジの1つです。あまりispaceを責めないように……したいですが、まああの煽り散らかした写真はダメですね。旧twitterみたいなパリピ要素は一切必要ないので、技術者たるもの実直に真面目に誠実に、仕事に取り組んでいただきたいところ。

それではまた。ご覧いただきありがとうございました!

コメント

タイトルとURLをコピーしました