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潜水艦映画「真夏のオリオン」を観た感想:ツッコミどころだらけだった件

回天2日常 diary
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こんにちは、ハルです。
今回は映画の話です。

今回はアマプラで「真夏のオリオン」という映画が見放題になっていることに気付き、久しぶりに視聴した感想を書きたいと思います。ただの感想です。役に立つ情報は一つもありません。

2009年の作品としてはそれなりに臨場感や手に汗握る場面もあり当時は楽しめた……のですが、いろいろ知識も増えた16年後の2025年に改めて見返したところツッコミどころ満載で思わず笑ってしまったので記事にします。

本編のネタバレ等があります。

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真夏のオリオンとは

「真夏のオリオン」とは2009年6月13日公開された邦画です。

第二次世界大戦(太平洋戦線)の敗戦直前の大日本帝国海軍潜水艦「伊-77潜」の活躍を描く潜水艦映画で、ジャンルは戦争映画です。

私はまだ若いころに一度テレビで視聴したことがあり、今回たまたまアマプラで配信されているのを発見して懐かしくなり、久しぶりに見返した次第です。
原作は池上司著『雷撃深度一九・五』。原作も読了済みです。

ちなみに「伊-77潜」は実際には存在しない架空の潜水艦です。
ではそのモデルになったのはというと、あの有名な巡潜「伊-58」です。ゴーヤでち!

そう。伊58と聞いてピンとくる方も多いと思いますが、『雷撃深度一九・五』はあの米海軍重巡インディアナポリスの撃沈を描いた作品です。原爆を運んだ重巡として非常に有名ですよね。

とはいえ「真夏のオリオン」ではインディアナポリスや原爆と言った話は登場せず、潜水艦キラーの米海軍駆逐艦パーシバルとの戦いを描いた作品。
小説をそのまま再現したほうが良かったような気もしますが、インディアナポリスはこれまでも映画の題材になっているので避けたのかもしれません。

改めて見返したらツッコミどころ満載だった

冒頭にもお話しましたが、最初に視聴した2009年当時はそれなりに楽しめたのですが、16年後の2025年に改めて見返したところツッコミどころ満載で思わず笑ってしまいました。どのような点がおかしいのでしょうか。

開幕:潜水艦同士で雷撃戦(笑)

映画を見始めて6分~から始まる最初の戦闘シーンは、なんと潜航した潜水艦同士で魚雷を打ち合う雷撃戦が繰り広げられます。

潜水艦同士で攻撃し合うのは第二次世界大戦後にホーミング魚雷等が開発された後のお話で、第二次世界大戦中は魚雷で潜航中の敵潜水艦を攻撃するなどあり得ません。
誘導装置のない当時の無誘導魚雷では絶対に当たりません。ましてロクなソナーも積んでいない日本海軍のオンボロ潜水艦では、相手の潜水艦の位置を三次元的に把握するのは不可能です。明らかに雷撃戦の知識が不足しています。

伊77の艦長が凄腕だという事を示すためのエピソードなのでしょうが、あまりに非現実的すぎてファンタジー映画と受け取られかねません。

浮上した潜水艦に対してなら魚雷をぶっ放した事例はいくつもあります。最近話題のワフーとか

2式魚雷
大和ミュージアムに展示されている二式魚雷 (筆者撮影)

魚雷とは水上艦を攻撃するための武器です。そのため魚雷が走る水深(駛走深度)は水上艦の喫水部分より下に穴をあけるため、3 m~10 m程度に設定されます。

一応作中では「駛走深度20」と艦内放送が流れます。
対潜水艦戦なので深度を20 mに設定するのは矛盾が無いように見えますが、当時の魚雷(九五式魚雷)の駛走深度を20 mに設定できるのかどうかは不明です。訓練時などは艦底の下を通すために、20 mくらいは設定できるのかも知れません。

伊-58

写真の魚雷発射管は伊58(実物)の貴重な内部写真!!

敵艦に追い詰められて二酸化炭素濃度が高い!→サイダーを飲む

60分~前後。

物語は進み、米海軍駆逐艦パーシバルに追い詰められた伊77は海中で長い間待機せざるを得なくなります。

当時の潜水艦は、潜水艦という名前ではありますが長時間潜り続けるのは不可能で、定期的に海面に出てバッテリーの充電と空気の補充をしなくてはいけません。実際は可潜艦という名称が正しいところ。

で、長い間海中に閉じ込められた艦内には乗組員の呼吸で二酸化炭素が増えて息苦しい、暑苦しい……そんな描写がされます。

乗組員
乗組員

暑くて息苦しい……せや!サイダー飲んだろ!

せめてもの気晴らしにと乗組員全員にサイダーが配られます。清涼感ある炭酸飲料でほっと一息……いや、あかんやろ(笑)

ご承知の通り、炭酸飲料には大量の二酸化炭素が溶け込んでいます。その量、なんと500mlの炭酸飲料で二酸化炭素は956ml!!

作中の描写からこの瓶入りサイダーの容量は300 mLくらいかと想像されます。二酸化炭素の体積は574 mL。

伊-58の乗組員の総数は94名。仮に乗組員全員がサイダーをおいしく賞味して、ゲ〇プ等で艦内に二酸化炭素を放出した場合、その総体積は約54,000 mLにもなります。

さて54,000 mLの二酸化炭素が艦内二酸化炭素濃度の何ppmに相当するかは、伊-58の内部空間の容積が不明なので何ともですが、少なくとも呼吸にも苦労するほどの艦内にさらに二酸化炭素を放出するのはいくらなんでもいかんでしょう。

ちなみに54,000 mLは2.41 molのCO2に相当します。2.4 molが多いのか少ないのかなんとも言えません。

二酸化炭素濃度が高い!!→回天の酸素を放出

61分~。

サイダーを飲みすぎた影響もあってさらに二酸化濃度が上がり、息も絶え絶えな乗組員たち。(だから潜水艦で炭酸飲料はアカンて……)

サイダーのせいでここまで追い詰められてしまい、かくなる上は乾坤一擲の攻撃をせんと回天(特攻兵器)での出撃を希望する回天搭乗員たちとのやり取りをきっかけに、回天に搭載された酸素を艦内に放出することを艦長が思いつきます。

これは一見ナイスアイディアのようにも思えますが、残念でした。現実はそう甘くありません。

というのも「酸素が無くて呼吸が出来ない」のと「二酸化炭素濃度が高くて意識を失う」のは全く別の問題だからです。

いくら回天から酸素を供給したところで、艦内にすでにある二酸化炭素の量は減りません。これはアポロ13の事故でおなじみです。二酸化炭素を減らすには水酸化リチウムのフィルターなどがよく用いられますが、作中では酸素を吸って気分爽快になった描写しかありません。明らかに生化学の知識が不足しています。

魚雷に圧し潰されて乗組員が〇ぬシーン→息してるし(笑)

~1時間16分。

回天の酸素を吸ってハイになった乗組員たちは、魚雷で反撃に出ます。

しかし唯一残された1本の魚雷が故障!この故障を直すために魚雷を取り出して釣り上げますが、艦が揺れて魚雷が落下!!乗組員が押しつぶされてしまいます。

唯一の戦死者が出る悲しいシーンですが、よく見てください。この戦死者、鼻がヒクヒク動いています(笑)

〇んだ人間が呼吸をして鼻が動いている。しかも顔がドアップになるシーンでやらかすのでめちゃくちゃ目立ちます。俳優のプロ意識と制作側のチェック能力が明らかに不足しています。

魚雷を回避するために調定深度5の爆雷を打つ→そんなすぐ調整できない

~1時間12分。

やや前後しますが、ハイになった伊-77潜から魚雷攻撃を受けた米駆逐艦。これは回避不能だと悟った艦長が「調定深度5の爆雷」を咄嗟に撃って回避するシーン。

手に汗握るなかなかのシーンですが、残念でした。爆雷の調定深度はそんなにすぐに調整できません。

確かに爆雷の調定深度は150 mくらいまで調整出来るようになっていますが、これは人力で爆雷の深度調定レバーをグリグリ回して調整する必要があります。魚雷が目前に迫った1秒を争う場面ではそんな調整をする時間はありません。

こんなこともあろうかと予め調定深度5の爆雷を用意しておいた説?凄腕すぎるでしょ……。

敵艦と衝突して深度190で着底→回天を発進させるのは無理

~1時間30分。

雷撃で反撃する際に敵駆逐艦に衝突してしまった伊-77。潜横舵(潜オーダーじゃないよ)が故障してブローいっぱいでも沈降が止まらず、深度190で海底に着底してしまいました。

絶体絶命の危機ですが、ここから子どもたちの書いたクジラの親子の絵を見て、回天を潜水艦と誤認させる戦術を思いついた艦長。回天2艇を無人で発進させ、無事に敵駆逐艦を騙してつり出すことに成功しました。

斬新な発想で一発逆転という痛快なシーンですが、残念ですがこれは実現不可能です。というのも回天の耐圧深度は80 mです。

一方伊号潜水艦の耐圧深度は100 m。この差のせいで回天を搭載していると母艦である伊号潜の海中機動が制限されて大迷惑した(どころか撃沈につながった)、といった話が伝わっています。

耐圧深度が100 mといっても潜水艦の場合は安全係数を取っているため200 mくらいまでは案外潜れるみたいですが、魚雷を魔改造した回天にそこまでの耐久性があるはずもなく。190 mで着底したら間違いなく回天は壊れます。

つまり回天で反撃という物語の根幹が破綻しているわけであります。戦史の知識が圧倒的に足りない。

回天
大和ミュージアムに展示されている特効兵器「回天」 筆者撮影
回天2

まあ回天を非人道な特攻兵器ではなく乗組員を救うためのアイテムとして利用するというアイデア自体は優れています。

以上が真夏のオリオンを再度見て感じたツッコミどころでした。

正直私程度のにわか知識しかない人間でもこの有様なので、プロの人やオタクが見ればもっとひどいでしょう。

ではダメダメなのでしょうか。リアリティがあった部分はないでしょうか。

逆にリアリティがあった部分

そんな残念な真夏のオリオンですが、リアルな部分も描かれていました。

・急速潜航時に「手空き総員艦首へ」と艦首へ大移動して潜航速度を高める工夫。
・潜水艦隊の散開線描写
・聴音機で聞く駆逐艦のスクリュー音は本物っぽかった
・浮かんできた日本海軍乗組員の遺体のシャツボタンがすべて閉まっていたから偽装だと察知した艦長はなかなかやり手

また、配管だらけの艦内の様子はリアルさを感じましたし、やけに美味そうな食事の様子なども見どころの一つかと思います。


ということで今回はここまでにします。

今回は真夏のオリオンを見て感じた感想などをご紹介しました。

しかし一体どうしてここまでトンデモな内容になってしまったのか、首を傾げるばかりです。映画監督や俳優が一般教養に乏しいのは仕方ないとしても、原作者の故池上司氏はいくつもの軍事モノを書かれておられる作家ですし、監修の福井晴敏氏はもちろん終戦のローレライや亡国のイージスなど有名な作品を生み出されている方で、私などよりはるかに知識も豊富なはずです。一体どうして……。

それではまた!ご覧いただきありがとうございました!

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